脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」
HOME > パニック障害(PD:Panic disorder、パニック症):催眠療法脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」TOPに戻る


パニック障害(PD:Panic disorder、パニック症)

 
 パニック障害(PD)において、深刻な予期不安は症状とセットになっています。一度パニック発作を経験すると、再び発作が起こるのではないか、他人に苦しむ姿を見られるのではないかという不安(予期不安)から抜け出せなくなってしまいます。

 パニック障害の病態は、予期しない激しい動悸やめまい、手足の震えやしびれ、胸部不快感、発汗、窒息感などで、著しい場合は、このまま死んでしまうのではないかという恐怖を感じるほどの状態になることもあります。しかし、パニック発作は交感神経の過剰興奮が原因で起こる症状であり、これらの症状によって命を落とすことはありません。時間の経過とともに自然に症状は治まります。
 
 しかし、もともと不安傾向が強い人は、発作や予期不安から抜け出すことができずに行動規制がかかり、生活範囲が限定され、悩み続けて深刻な状態に発展してしまう可能性があります。

 このPD は不安症(AD)に分類され、近年は脳機能障害として扱われるようになり、扁桃体の過剰な興奮を中心に、その他の辺縁系領域(帯状回・島とうかい回など)や前頭葉領域(内側領域、眼窩皮質など)、視床、脳幹など様々な脳領域の機能や構造の異常が関与していると考えられています。(P.45 図参照)

 しかし、よく考えてみてください。

 なぜ扁桃体が異常興奮を起こし、自律神経の交感神経が過剰に刺激されてパニック発作が起きるのか、その原因は何でしょうか。

 人は「原因」が分かれば「結果」に対して不安を感じにくくなります。パニック発作においても同じで、なぜ発作に襲われたのかという「原因」が明確になれば、「結果」を回避する対処法を考えることができ、心が安心できるのではないでしょうか。

 パニック発作における「原因」については、誤解されることがあります。実際に、発作が起きた時の環境や状況が原因ではありません。発作の背後には複雑な心理要因(深層心理)が絡んでいます。

「原因」について詳しくお話しする前に、心に深く刻んでおいてほしいのは、パニック障害は治せるということです。

 パニック障害は治るし、本来の自由な生活を取り戻せるのです。そのためには、発症の原因を正しく明確にする必要があります。

 では、その原因とはどのようなものでしょうか?

 例えば、パニック発作の原因を乗り物に乗ることだと誤解してしまうと、乗車することに恐怖を感じてしまい、発作が起きるかもしれないという不安から、降りることができなくなってしまいます。

 断言しますが、環境や状況がパニック発作を引き起こしたわけではありません。

 いつ再び発作が起きるか分からないといった不安は理解できますが、そのような環境や状況がパニック発作を引き起こす原因であるという思い込みに陥り、恐怖心を抱いている心理状態では、決して克服することはできません。

 実際に発作を引き起こす「原因」とは、過去の精神状態が現在の環境や状況と結びついた心的な刺激なのです。

 人によって「原因」は様々です。まずは自分の過去の環境に遡った精神的な真の「原因」を見つけ出すことが、予期不安を乗り越えて、パニック障害を治すこと(克服)へとつながっていきます。

 パニック発作は、拘束感のある環境で起きるものだけではありません。家でリラックスしていると思える状況でも起こるのです。なぜなら環境ではなく、精神的な問題が原因だからです。

 具体的な説明のために、一つ例を挙げたいと思います。

 37 歳の主婦の事例です。ある日、お風呂に浸かっていて息苦しくなり、急な動悸とともに、痙けいれん攣が起き、死の恐怖を感じたのをきっかけとして、パニック発作に怯えるようになっていました。もちろんお風呂が「原因」ではありません。

 彼女は、発症当時、ある悩みに苦しんでいました。それは、義理の母親(姑)との問題でした。身勝手で自己中心的な義母からの要求に日々苦しめられていたのです。

 こうした精神的ストレスに長期間さらされ続けると、その精神的圧迫によってパニック発作を起こすことがあります。心は解放されたくても、逃げ出すことができない環境に反応して苦しむのです。

 ではなぜ人は、パニック発作が起きる人と起きない人がいるのでしょうか。

 その答えが、子供時代のトラウマなのです。このトラウマが作り出す精神的ストレスが「原因」なのです。
 そして、このトラウマが彼女の精神的自由を奪って、心をがんじがらめに縛りつけてしまっているのです。

 彼女は幼いころから父親との関係が希薄で、会話もほとんどない状態だったようです。一方、母親とは何でも話ができて満たされていたのですが、高校へ入学してすぐに病気がちだった母親は亡くなってしまいました。その後、母方の祖母が、彼女と妹の母親の代わりとして一緒に住み始めました。祖母は、心から彼女たち姉妹の世話をしてくれましたが、「孫たちが可哀そう、可哀そう」といつも嘆いていたとのことです。

 姉妹は「不憫で可哀そう」「わたしが代わりに死ねばよかった」と繰り返し聞かされていたのです。祖母はまた、「お父さんは子供の相手をするよりも外で遊んでいるほうが楽だからいつも帰ってこないね」と彼女たちに父親の悪口を聞かせ、時には直接父親に向かって「わたしは朝から子供たちの面倒を見て、いろんなことを心配して大変なのに、あなたは何ですか」などと責めていたと話していました。 

 父親は父親で、娘たちに対して「お前たちはお父さんよりもお母さんに生きていてほしかったんだろう」と酒を飲みながら絡んできたり、「こんなに早く妻を亡くした自分は不幸だ」などの嘆きや愚痴を聞かされていたのでした。

 彼女は、こういった環境での生活を余儀なくされて育ったのです。

日々、祖母から父親への不満や批判を聞き続け、徐々に祖母の感情に自然と同調するようになり、父親に対する不満や怒りも増幅していったようです。

 娘として、心の中では父親を求める思いがあっただけに、しっかりと自分たちに向き合ってくれない父親に対する不満や反発も大きくなり、言葉を交わすことさえ避けるようになっていったと話していました。

 父親は娘を自分の型にはめたがり、学校や進路などでも娘の意志などを聞かずに一方的に押しつけられ、甘んじて受け入れるしかないことへの反発心も大きかったようです。

 問題はここなのです。

 彼女は、父親に自分の話に耳を傾けてほしかったのです。気持ちを汲みとって寄り添ってほしかったのです。一方的に強制されているような思いで過ごしたくはなかったのです。

 彼女は結婚し、子供もでき、家族との関係を大切にして育てていました。最初のパニック発作を経験する数日前は、家族旅行をして幸せを感じて心は満たされていたとのことです。
 しかし、旅行から帰った後に主人の両親から話があり、「自分たちが老人ホームに入る費用を全額負担してね」と、いつものごとく当然といった要求の話を持ち出されました。

 これまでも、いろんな身勝手な要求を我慢して受け入れてきていたとのことでしたが、自分たち家族の今後を考えると、旅行もできなくなるといった、耐えられない心情に激しく襲われ、悶々として過ごしていたのです。

 夫と相談しても、「息子が負担するのは当然だろう」といった一方的な押しつけに孤立無援となり、トラウマの記憶が無意識に反応してしまったのです。自分の気持ちは無視されて押しつけられる、子供時代と同じ心理的状況に追いやられたのです。

 彼女には、自分や子供との人生を守りたくてもどうにもできないやるせない感情が襲っていました。母親を病気で失った時も、現実を受け入れて耐えるしかなかった、これまでのそうした生き方を、結婚後は努力することで変えたかったのです。
 しかし、自分には自由がない、逃げるに逃げられない、閉ざされ圧迫された重苦しい感情が発作を誘発したといえます。

 こうした、子供時代の精神状態(トラウマ)と、パニック発作が起こった当時の精神的状態が、無意識にリンクして重なり、二度と味わいたくない過去の感情の記憶が無自覚に蘇り、パニック発作を引き起こしたのです。

脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」TOPに戻る