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第2章 P.56~本文の一部の紹介です。出版社との契約関係で、全部を掲載できないことをご理解ください。
 購読していただき、活用していただければ嬉しく思います。   著者:井手無動

サブリナル効果

 あなたはサブリナル効果という言葉を聞いたことがありますか?

 サブリナルとは、意識では捉えられない手段で、人の心の中に情報を送り込む技術です。
 0.5秒以内の短い時間で人に映像を見せることなどもその技術の一つです。
 このような短い視覚情報による情報伝達方法は、脳内の視覚野では確実に認識されても、あまりにも短時間過ぎて、その内容を私たちの脳は決して意識化することが出来ないという脳機能の特徴を利用した効果です。
 私たちは、サブリミナルと呼ばれる、ほんの短い時間に与えられた情報に、無自覚のまま影響だけはしっかりと受けてしまうのです。
 有名な話ですが、映画館でフィルムの1コマに「コーラが飲みたくなる」と書かれていたとしましょう。それを見た瞬間から、私たちはコーラを飲みたくなってしまうのです。映画フィルムの1コマは、1秒間に24コマ流れていますので、24分の1秒です。実際はもっと短い時間でも効果は出ます。
 なぜそのようなことが起こるのかというと、私たちがものを見たとき、脳の後頭葉にあるV1視覚野で受け止めた情報が側頭葉に記録された過去の記憶などを総合的に検証しながら頭頂葉の視覚連合野で処理されます。その結果を視床を経由して前頭葉で意識化していますが、情報の時間が短いと、無意識内の情動では反応が起こっても、視覚野で捉えた情報が時間的に短か過ぎて、前頭連合屋に伝わらないのです。伝わらないから意識化できないのです。
 そうした理由で、私たちはなぜそのような気分になるのか分からないまま情動では反応してしまい、コーラを購入せずにはいられなくなってしまいます。

自覚なき影響

 こうした脳の仕組みはどういったことを示唆しているのでしょうか。
 私たちの無意識内には多くのトラウマが潜んでいます。そうしたトラウマが、何かの刺激で喚起され、意識されない短い時間の刺激となったとき、心の中に様々な情動が生じてきます。
 私たちの心の奥にはそうしたトラウマが満ちているのです。
 このような多くの意識化されていないトラウマからの影響の方が、自覚されているトラウマの影響より怖いのです。
 なぜなら、人は意識上で何らかの影響を受けていると気づかない時ほど、より強く影響を受けてしまうからです。
私たちは、日常生活の中で自然に沸き起こった感情や衝動に対して、それらが沸き起こった理由づけを意識的に行って生きています。いわゆる自己正当化をして生きているのです。しかし、多くの場合、その理由づけは間違っています。
 それは、自分の中に生じた情動の原因が正しく理解されていないからです。もっと正確に言えば、情動発生の“動機となった原因”が脳の前頭葉に伝えられていないがゆえに、理解できる範疇(前頭葉が情報を認識できる範疇)で答えを導き出し、納得するしか仕方がないのです。
 このような、間違った思い込みや結論に至ったとしても、なぜそうした情動が生じたかという、原因となる情報がない(明確に意識化できない)から仕方ないのです。
 こうした間違った正当化のことを、誤帰属といいます。