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生い立ちの秘密によって人生の方向性が決定付けられたのか、逃れようがないそうした宿命で生まれてきたのか・・・。
精神的苦悩の中でのもがきとそれゆえに達成できた自己錬磨によって、ライフワークを見出していく・・・。
ただ、そこには、不思議な運命的な出会いや展開があった・・・。 ナラティブカンパニー 井手無動

心を救う独自の催眠療法
確立までの奇跡と脳科学

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●遠方からの相談増加で始めたスカイプ治療

 2005年。井手は『ドスペ!』(テレビ朝日)という全国放送の2時間番組に出演した。
 そのなかで、タレントに青汁をワインだと思わせて飲ませたり、高所恐怖意識をなくしてバンジージャンプを成功させたりする井手の姿が紹介された。また、大学と協力しておこなったある実験も放映された。
 その実験は、催眠状態での脳の変化を科学的に解析するものだった。科学的実証を入れたのは井手の希望でもあった。やらせでないことをわかってもらいたかったからだ。
「脈拍や脳波を測ったり、心電図をとったりなど、科学的な実証がないとやらせだと誤解されてしまう恐れがあります。催眠は確実に心身に変化を与えていることを知ってほしかったのです」
 放映後は再び問い合わせが殺到した。この番組をきっかけに、全国からの相談が再び増えた。
 心の病を解消できることにやりがいを感じる一方、気がかりもあった。遠方から何度も来るとなると交通費や宿泊費など、相談者の負担が大きい。忙しくて時間が作れない相談者もいる。「どうにかならないか・・・・・・」。
 電話での催眠療法は昔から聞いたことがあったが、そんなまねごとをやっても意味がないと感じていた。「暗示を一方的に与える電話での暗示療法では無意味だ・・・・・・」。
 もっと斬新な発想が必要だった。離れていても催眠療法に必要な環境をどうにかつくり出せないか。試行錯誤が始まった。

催眠暗示CD ※クリックで、説明サイトが開きます。幸運にも、時代はもうパソコンの普及という恩恵を私たちに与えていた。催眠療法に最適なスカイプというネット通信もすでにそこにあった。家庭電話でも可能なように工夫もした。
 また、試行錯誤の過程で閃いたこともあった。それは相談者の必要に応じて、より効果的に理性と感情に働きかけるためのCDだ。これを『催眠暗示CD』と名付けた。
「これは画期的でした。たんなる暗示ではなく、理性の理解を促しながら情動に暗示として働きかけられるのです。しかも、何度でも繰り返し聞いてもらえるのです。電話やスカイプでの相談だけでなく、直接相談にみえる方にも活用しています」

●催眠カウンセリングへの自負

 心の病で悩んでいる相談者は、自分を不幸だと感じている場合もあるという。「自分だけが不幸だ・・・・・・」「この気持ちはだれにもわかってもらえない・・・・・」。そう考え、心を閉ざし、症状を悪化させる。病院などでも医師に対し、「心を病んだことがないあなたに、私の苦しみなどどうせわからない・・・・・・」と、不信と不安を抱くこともある。
 そんなとき、井手は自分の生い立ちを語ることがある。内容は違えども自分にも精神的な試練があったと話しはじめる。包み隠さず語ることで、相談者は共感を覚える。そして、「諦めずに乗り越えよう」という気持ちが生まれてくるという。
「本人は忘れ去っているか、今ではなんとも思っていない過去の出来事や環境が、トラウマとなって、人生に確実に影響を与え続けていることを私自身が経験してきました。実の母親に捨てられた幼い子供の心の傷が、人生にどのように働くものなのか。記憶に残っていなくても、脳には確実に実母の痕跡が深く刻まれているのです。当時のことを思い出せなくても、あるいは、まったく意識することがなくても、捨てられた後の母子間の分離による不安な感情は、しっかりと脳の情動系に残っています。人によって内容は違えども、心が受ける影響は、過去の記憶が消えていようが、意識されまいが、そんなことは問題ではありません。そのことをわかっていただきたいと心から願っています」
 井手には何十年も自分の心を見つめ、また、自分の心では体験していない相談者の心の症状をしっかりと探求しながら、研究を続けている自負がある。
 深層心理学や精神医学だけではなく、心の症状の解決法の根拠を脳科学に求め、裏付けとヒントを得て心の改善にあたってきた。心と脳との関係は、まだまだ未知の領域もあるが、 「脳の活動が人の心を生み出している」ことは近年、さまざまな研究で証明されてきている。 
「脳の一部を切除すれば、人格や性格が変わることが実証されています。つまり脳神経細胞の電気的生化学的反応が心を作っていることは否定できないわけです。事務所と無動事務所における井手無動 クリックで画像が拡大。催眠療法は、脳を外科的に扱うのではなく、脳機能を正しく理解したうえで、心理的に働きかけることで脳内の機能不全やダメージを回復させるのです。脳を無視して心の病は治せません」
 催眠という言葉のイメージで、誤解を招くことは今もある。
 しかし、どれだけ誤解されようと、縁あって自分のもとを訪れた相談者のために、少しでも役に立ちたいと、井手は穏やかに話す。
 はじめての相談者と会うとき、とても緊張するという。「どんな人が来るのか」「満足してもらえるのか」。そんな思いが押し寄せる。
「楽になってきた」という声が聞けるまで、井手は試行錯誤を繰り返していく。