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第1章 催眠療法について


催眠療法とは


 催眠療法は、よく誤解されますが、あたかも魔法をかけるがごとく人の心を変えていくことではありません。もちろんそのように心の状態が変化していくこともあります。しかしながら、そのような場合はいくつかの条件が整っている場合であり、やってみなければ分からない世界でもあります。しかし、うまくいったとしても一般的には一時的効果しか望めないことがほとんどでしょう。


 私が本書で説明する催眠療法は、昔から行われている暗示を与える(魔法をかける)だけの催眠療法ではありません。このような単純な行為を催眠療法という名のもとで行われているが故に、「催眠療法で治すと再発することが多く、これは治療法としてひとつの弱点」と評され誤解されるのです。これから説明していく催眠療法の内容を理解していただき、これまでの古典的な桂眠療法に対する観念を振り払って頂きたいと思います。


 人は催眠状態に導かれても、無意識の中に抵抗があれば、そう簡単に暗示を受け付けません。心の病に至っている人は必ずと言ってよいほど、いったん受け入れたかに見える暗示を無意識内の原因からの力で撥ね返してきます。なぜなら心の病を作っている原因が無意識の中にあり、その原因が癒されるまでは、どんなにその人に必要な暗示であっても拒絶されることが多いのです。症状をこじらせていればいるほどその傾向が強くあります。


 人は催眠状態になって暗示を与えられることだけで、心の病が治り、悩みが消え去るような単純な生き物ではありません。そのような古典的な方法で現代の人の心は癒されるものではないのです。では、どのようにすれば人の心は癒され、病も治っていくのか、催眠療法とはいかにあるべきかを、この本全体にわたって説明していきます。催眠療法の重要な要素は、催眠導入のテクニックよりも、導入後に、苦しみ悩んでいる本当の原因の根っこがどこにあるかを見つけ出し、正しく認識させ、相談者の過去と現在の心を癒し、正しい状態に導いて解放してやるか、切り変えてやるかの技術と内容なのです。


 本書を読み進めるうちに、心の病や深い苦悩に至ったとき心がどのように傷つき苦しんでいるか、そして背後の原因によって何を心が求めているのかが、あなたにもだんだん分かってきます。


 相談者から「以前ほかの所で催眠療法を受けたことがあるが、どうしても深く催眠に入れなかった。結果、症状はよくならず無駄に終わったが、それでもここでは治してもらえるでしょうか」と質問されることがよくあります。これは催眠に入りさえすれば、どのような症状でも治るのだという誤解の代表的なものです。また、今まで何カ所で催眠療法を受けたが、「あなたは催眠に入れないからダメです」と何回か通っているうちに断られたということもよく聞きます。催眠に入れて暗示を与えるだけで心の病などが、根本的に治ることは軽い症状の場合を除いて絶対にないのです。催眠にどんなに深く入っても、一時的に効果を出せるかもしれませんが、それだけでは意昧がないのです。そんなことをしていると、一時的に楽になったり再発したりを繰り返し、治してもらっているうちにだんだんと依存心がついてくるだけで催眠療法から抜けられなくなってしまいます。


 本当の催眠療法とは、催眠に入れないといわれる人たちでさえも、的確な催眠療法で効果を出すことができるように導かなくてはいけないのです。催眠療法をする側に、心と催眠の本当の世界が分かっていれば、どのような心の病を持つ人でも、催眠に入りにくい人でも治すことが可能なのです。


 催眠に入ることさえできれば、人はどのようにでも変わっていけるように誤解されてきました。果たしてそうでしょうか。テレビの娯楽番組などでやっている催眠術、これを見たことがある人は、あんなのやらせだよと感じたり、本当にそうなったのだと信じたりと人様々な思いがあるでしょう。実際人間は催眠に導入され暗示を与えられると別人のようになったり、言われるままに行動したり、痛みを与えられても暗示ひとつで苦痛を伴わなくなってしまったり、本当かなと思えるような状態になってしまいます。


 ですからテレビなどを見て、催眠でどのようにでも変わることができるのなら、今自分が苦しんでいる悩みや身体に出ている症状を治して欲しい、消し去って欲しいと願うのはごく自然な思いでしょう。しかし、残念なことに、心の病はそう簡単にはいかないのです。なぜでしょうか。テレビでやっていることが本当なら可能なように思えるのになぜ無理なのか。それは、催眠状態というものがどういうものかが理解できれば分かってきます。人が催眠にかかっているとき、その人の意識は普段の状態とは少し違う(変性意識)状態であり、周りの人には意識がなく操られているように見えても本人はきちんと自分がやっていることは分かっているし、拒みたければ拒むこともできますが、どうでもよいことに関しては抵抗がなく拒もうとはしなくなっています。しかし、羞恥心や生命、本能にかかわることなど本人にとって重大な範躊であり、かつ望まないことに関する暗示には簡単に抵抗することができるのです。要するに全てが言われるままにはならないので、私もテレビや舞台で娯楽的な遊びの催眠を披露するときなどそのことに十分気をつけています。